マイから「今週か来週の夕方から夜、空いてない?」とLINEがあったのは桜の蕾がようやく綻び始めた3月半ば過ぎの頃だった。
「うーん、春期講習があるにはあるけど、夜の授業に入っていない日もあるから空いてなくも無い」と返すと、「取引先から椿山荘のアフタヌーンティーのタダ券貰ったんだけど、行けない?3枚あるからカオと3人で」
瞬間どうしようかと逡巡したが、さほど間を開けずに「おお!高級ホテルのアフタヌーンティー!いいね!空けるよ。ぜひぜひ」と返した。
マイ、カオリ、ミドリ、アズサ、そして私。大学時代、仲良し5人組だった私たちは、卒業して十余年の時を経て、結婚して子供のいるアズサとミドリ、未婚でバリバリ働くマイとカオリ、そして既婚だが子供のいない私、に細胞分裂した。
一度、何かの機会でアズサとミドリと私の3人でお茶をしたが、育児ネタで盛り上がると2人のうちのどちらかが慌てて私も加われる話題に戻す。それが二度三度重なると私の方が居たたまれなくなり、途中で急用を思い出した、と言って帰途についた。それ以来、わだかまり、とまでは言わないが、あちらは私を誘いづらいだろうし、私も積極的に会いたいとも思えず、疎遠になってしまっている。
毎年正月になると、でかでかと裏面のほとんどを占める子供の写真入りの賀状が来るが、家族が揃って写っている写真の中に子供が写り込むのは分かるとして、「××歳になりました!最近は□□に夢中です!!」なんて吹き出し付きの子供だけの画像を見せられても、「知らねーよ」と言いたくなる。
世の中には望んでも結婚できない人や子どもが持てない人もいる。わざわざ別のデザインの賀状を作れ、とまでは言わないが、そんなものを何十枚も見せられるこっちの身になって欲しい、と思わなくもない。
「どうして親戚でも仲人でもない友人に子供の写真入り賀状を送るんだろうね」
いつだったか、マイにポツリとそう呟いたら、「マジそれな!マウント取り?知らんけどウザすぎだよね」とすぐ反応があり、(ああやっぱり似たようなことを思ってるんだ)と安心した。
女同士の友情ははかない。小学校の高学年からそういう細胞分裂(実際の肉体と違って、分裂した細胞はすぐに他の細胞とくっついたりするのだが)を繰り返して来た私たちは、この歳になると、そんな分裂を経験しても、もうさして動じなくなっている。
では、マイやカオリといると心穏やかで居られるか、と言うと、それがそうでもないのがややこしい。
2人は業種は違えど、バリバリ働くキャリアウーマン(死語?)である。
彼女らが普通に交わす会話についていけないこともしばしばあって、そんな時に住む世界の違いを自覚する。例えば「新人研修でOJTやってくれってチーフに言われてさ。ダルい」とか「今日はNRってボードに書いといからノープロブレム」など、会話に出てくるそんなビジネス略語が分からずに曖昧に相槌を打って、そっと机の下のスマホで調べたりする。
仕事の上の必達目標も、勝ち負けもない。敵もライバルも居ない。おかげ様で「お気楽な」日々を過ごしている私だが、苦楽を共にする仲間も居ない。
「オッケー、いいよ、手を引こう。そんな無茶言うクライアントに関わってたらデメリットの方が大きいよ。マネージャーには私から言っておく。…ドンマイ気にするなよ、キミのせいじゃない」と、歳下の男性社員にテキパキ電話で指示する様子を目にしたり
「崖っぷちから、チームワークの大逆転勝利!みんな頑張った!お疲れー」というキャプションの入った職場のメンバーとの乾杯のインスタの写真を目にしたりすると、自ら降りた道とは言え、何か大切なものを失った気にもなる。
子供のいる友人の間では身の置き場がなく、さりとてバリバリ働く友に混じっても居心地が悪い…。そんな時、私はイソップ童話のコウモリになった気分に襲われる。
誘われた時に一瞬躊躇ったのもそんな事情があったからだが、いちいち気にしていたら、本当に孤独になってしまう。分からなければ学べばいい。そして学ぶのなら、子供を持つ母親の心情より、男に伍してもがくビジネスウーマンの日常や心情の方が、ハードルが低い。そう気を取り直して、いいね、是非、と返したのだ。
(続く)
※いつもご高覧、ありがとうございます。今までは、長文の日記を完成させてから一気にポストしていたのですが、これからは書き終えた分だけ、キリのいい所でその都度投稿しようと思います。続きはまた何日か後に。しばしお待ちくださいませ。
コメント
コメント一覧 (1)
日頃自分が思っていることばかりでした。笑
ところで、前回の日記で教えて頂いたのでご連絡しましたが、Gmail届いてますか??
misato20aug
がしました